2011年11月29日火曜日

経営者の条件

 ◎書籍情報
経営者の条件(原題:The Effective Executive)
P.F.ドラッカー著、上田淳生訳
ダイヤモンド社(2006-11-09)

◎引用
成果をあげる人に共通するものは、つまるところ成果をあげる能力だけである。(P42)

成果をあげることは一つの習慣である。実践的な能力の集積である。
実践的な能力は習得することができる。それは単純である。あきれるほどに単純である。
7歳の子供でも理解できる。しかし身につけるには努力を要する。(P42)

いかなる分野においても、普通の人であれば実践的な能力は身につけられる。
卓越は出来ないかもしれない。卓越するには特別の才能が必要である。
だが、成果をあげるには人並みの能力があれば十分である。(P43)

◎要旨
構成としては序章にて提起、第一章~第七章で解説、終章でまとめという構成である。
原題であり、本書において主要な単語であるExecutiveは
1.(会社などの組織の)幹部、重役
2.(政府や国家の)高官、高位の行政官
3.(政府の)行政府、行政機関
という意味であるが、ドラッカー氏は
”エグゼクティブとは行動する者であり、物事をなす者である。”(P5)
”知識労働者として自らの組織の業績に貢献すべく行動し、意思決定を行う責任を持つ人たち"(P27)と定義している。


序章:成果をあげるには
ドラッカー氏によると、歴史上における成果をあげた人たちが
成果をあげることができたのは以下の8つのことを習慣化していたからであるという。
1.なされるべきことを考える
それは何をしたいかではない。
2.組織のことを考える
株主、事業員、役員のためによいことだけではない。
3.アクションプランを作る
時間は最も希少で価値ある資源である。
故にいつまでに行うか、行動への制約は何かを考慮し、時間と行動管理の基準とする。
とはいえ、アクションプランは絶対ではない。頻繁に修正を行うべきものである。
4.意思決定を行う
意思決定とは実行責任者、日程、影響を受ける故に知らされる人、
影響を受けなくとも知らされるべき人を決めるためのものである。
トップが行うこと意思決定のみが重要なわけではない。
組織全体のあらゆる階層にて行われる意思決定はそれぞれが重要な意味をもち、
組織に影響を与えることを周知徹底しなければならない。
5.コミュニケーションを行う
上記のことを行うためには伝えねばならない。理解してもらわねばならない。
下からの情報のみではなく、上からの情報にも注意せねばならない。
6.機会に焦点を合わせる
問題は何も生まない。問題ではなく機会に焦点を合わせる。
組織の内外に生まれる変化を機会として捉えねばならない。
7.会議の生産性をあげる
事前に目的を明らかにし、目的を達成したら直ちに閉会せねばならない。
8.「私は」ではなく「われわれは」を考える
最終責任は自らにある。トップが権威をもちうるのは自分のことではなく、
組織のことを考えるからである。これは厳格に守られねばならない。

1と2で知るべきことを知り、3から7で成果をあげる。
8で組織内に責任感をもたらすという意味合いがある。
以上、8つの原則にもう一つ追加されるべきこととして「聞け、話すな」がある。

第一章:成果をあげる能力は習得できる
エグゼクティブならばすべて成果をあげなくてはならない。それが仕事だからである。
成果をあげるとは物事をなすことである。成果は内からくるものではなく、
外からによってのみもたらされるものであることを認識せねばならない。
では、成果をあげるにはどうすればよいか?その方法を知ることこそが
結果を生み出す唯一の手段であり、能力や才能は関係ないのである。
以下の章によって具体的に掘り下げていく。

第二章:汝の時間を知れ
時間を記録する、整理する、まとめるという三段階のプロセスからまず始めねばならない。
そしてそこから生み出される無駄を排除し、時間という希少な資源を成果をあげるための
最も重要なことに使用する。自分の時間を知ること。そこから始まる。

第三章:どのような貢献ができるか
成果をあげるために組織への貢献を考えねばならない。
貢献に焦点をあわせ、成果に責任を持たねばならない。
なすべき貢献は3つ。直接の成果、価値への取り組み、人材の育成である。
貢献に焦点を合わせることによって、コミュニケーション、チームワーク、
自己開発、人材育成という4つの基本的能力を身につけることが出来る。
よって「どのような貢献ができるか」はエグゼクティブが常に自身に
問わねばならない事柄である。

第四章:人の強みを生かす
強みこそが成果をうみ、弱みは何もうまない。
「私に、彼に、出来ることは何か」を考え、強みこそ機会としてみなければならない。

第五章:最も重要なことに集中せよ
成果をあげるための唯一の秘訣は集中することである。
それは最も重要なことから始め、一度に一つのことしか行わない。
同時並行で行わなければ貢献をなし得ないと考えてしまうかもしれないが、
実際に一つに集中した方が実際に行える仕事の数と種類は多くなる。
集中のための原則を2つ提示する。
ひとつ、今日は明日のためにある。昨日の尻拭いに今日があるのではない。
生産的でない古いものは廃棄することが必要である。
ひとつ、本当ならば優先順位の決定ではなく劣後順位の決定を行うべきである。
やらねばならぬことを決めるのではなく、やるべきではないことを決めることが重要である。
そうすることにより行わねばならないタスクの総量が減るからであろうと私は考える。
残り100あるという状態から優先順位1位を選択することと、
残り3つから行う選択では後者の方が精神的に楽なのではないだろうか。
集中とは勇気である。
「真に意味あることは何か」「最も重要なことは何か」を自身で意思決定することである。
時間や仕事の従者にならずその主であるための方法である。

第六章:意思決定とは何か
第六章と第七章とで意思決定についての論が展開される。
意思決定はエグゼクティブの仕事のひとつにすぎない。
しかし、特有の仕事であり、特別の扱いを受けるに値する。
意思決定の5つのステップを以下にあげる。
1.問題の種類を知ること
ほとんどの問題は基本的な問題にすぎず、解決は原則を適用するのみでよい。
例外のみ個別に対応し、意思決定を行う。
2.必要条件を明確にする
達成すべき目的と、満足させるべき必要条件を考えねばならない。
奇跡はあてにできない。必要条件を仔細に検討し理解しておくことで
奇跡に頼らない決定ができる。これは意思決定において最も困難な部分である。
3.何が正しいかを知る
賢くあろうとせず、健全でなくてはならない。
妥協は必要となるからこそ、正しい妥協と間違った妥協を混同してはならない。
4.行動に変える
決定は実行されなければ、無駄に等しい。
決定の実施に必要な行動、命ずべき仕事、実行者は誰かについて考えねば
決定はただの意図にすぎない。
5.フィードバックを行う
大きな成果をあげた決定もやがて陳腐化する。
故に自ら出かけ確かめることで、決定そのものの中にフィードバックを
講じておかねばならない。

第七章:成果をあげる意思決定とは
正しい決定は、共通の理解と、対立する意見、競合する選択肢をめぐる検討から生まれる。
決定は意見からスタートせねばならない。事実からではない。
最初から事実は把握できない。事象は事実ではないのだ。
意見は未検証の仮説にすぎないため、現実による検証を求めねばならない。
その過程で共通の理解が生まれる。
続いて、意見の不一致が存在しない時は決定を行うべきではない。
意見の不一致は組織の囚人になることを防ぎ、選択肢を与え、想像力を刺激する。
故に意見の不一致はもっともらしい決定を正しい決定に変え、
正しい決定を優れた決定に変える。
人は多様である。
故に反対する人は自身とは違う世界を見ていると考えるべきであり、
反証がない限りは彼もまた知的で公正であると仮定せねばならない。
意思決定の数を多くしてはならない。
何もしなくても何も起こらないならば何もしないことも選択である。
理由はわからずとも心配や不安、気がかりがあるのならしばらく決定を待つべきである。
しかし、意思決定の正しさを信じるならば困難や不安や恐怖があっても
決定はしなければならない。

終章:成果をあげる能力を習得せよ
本書の前提、「なぜ成果をあげなければならないか」について各章の内容を通じた解説。


◎思ったこと
本書を読んで、アップルのカリスマCEO、Steve Jobs氏の行動と重なる部分を感じた。
彼は成果をあげた。
画期的な商品を次々に生み出し、アップルをわずか10年で
どん底から時価総額世界一にまで導いた。これ以上の成果があるのだろうか?
彼は時間の価値を知っていた。
有名なスタンフォード大での講演において自分の死を意識すること、
他者のために時間を使うべきではないことを述べている。
人生は有限であり、時間は最も希少な資源であることの認識に通じる。
彼は自分が出来る貢献を知っていた。
自分の強み、アップルの強みを知っていた。
思い描くライフスタイル、ゴールは見えているがその途中の道のりは見えていない。
それが彼の非凡なところでもあり、破滅の元でもあると語っていた者がいるが、
彼はそのゴールに向かって、社員をつき動かし、道筋を作る術を知っていた。
そして、必死になって作り上げたものを売り込む術を知っていた。
文字どおりそれらの製品群は
“We want to put a dent in the universe.”(宇宙に衝撃を与えたい)
世界を変えた。
それはまさしく彼のみが出来る組織への貢献であり、彼の強みである。
1995年、Fortune誌でのインタビューにおいてこう答えている。
“I’ve got a plan that could resue Apple.”
(私にはアップルを救い出す計画がある。)
アップルの強さはハード、ソフトを一貫して生産できる体制にある。
ハードはソフトのために、ソフトはハードのためにその能力を最大限発揮できる体制が整っている。彼の思い描くライフスタイルを思い描いたパフォーマンスで実行することができる。
“This is an illustration of Apple standing in the intersection of liberal arts and technology.”
(これは我々がリベラルアートとテクノロジーの接点に立つ企業であることを示している)
それがアップルの強みである。
彼は一つのことに集中した。
生産的でなくなった過去のものを廃棄した。
Appleが保管していた過去の貴重な製品群ををCEOにつくと同時に全て寄贈した。
“I skate to whare the puck is going to be; not where it’s been”
(私が目指すのは球が向かう先であって、それがあった場所ではない)
“The products suck! There’s no sex in them anymore!”
(今の製品はクソだ!セックスアピールがなくなってしまった!)
ここから彼は過去の製品、成果をあげない事業を切り捨て、製品ラインを絞り込み、価値あることに集中していった。
最後に意思決定である。
これは私にはわからない。
しかし彼が歩んできた道のり、それら全てが意思決定の集合であり、
その道のりの結果、成果をあげることが出来た。
それはすなわち彼が正しい意思決定を行ったと考える方が妥当であろう。

彼が本著から影響を受けていたかどうかはわからない。
しかし、彼は自らの行動をそのまま経営者の条件としていたように思える。
彼こそがThe Effective Executiveの体現である。
Steve Jobs氏は天才であったと思う。ここに異論を挟む人はいるだろうか?
しかし、ドラッカー氏は言う。
成果をあげることは誰にでも出来る、と。
Steve Jobs氏ほど尖らせることが可能であるかどうかはわからない。
Steve Jobs氏の天才性、卓越性はそこにあったのではと思わざるをえず、
ドラッカー氏がもしも存命であったならばどのような観察を行ったのかを知りたいと感じた。
少なくとも私には、Steve Jobs氏の成果こそがドラッカー氏が本著で述べてきたことの
証明であるという気がしてならない。

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